○月×日 天気:曇り後晴れ

工房でAliceと装備面で最終確認を行う。翼竜の革で作られた鎧を
身に纏い、弓や爆薬、煙幕を揃えて──曇りがち空を見上げ、TSSへと向かう。

「lerin,ちょっと貴女が興味を惹かれる依頼があるんだけれど」
そうAliceに言われたのが初めだった。なんでも高品質製品──HQ品と
言われるものだが──限定で装備を固めてある場所を攻略するという
依頼があるようだ。主催者はMs.Black Beetleで、復刻戦と銘打って
先日Aliceが行ってきたという蜘蛛城の攻略を行うとのことだった。
無論二つ返事で参加を申し出たのだが、一度目・二度目は管理人の
都合などで参加を赦されずに今回三度目にして初参戦となった。

矢の補充も終わり、真紅のDoublet,Skirtと白のFancyShirtに身を包み
自宅を出る。近くにあるムーンゲートからTSSのあるスカラブレイへ、
そのゲートから南西へ行くとAliceが通う酒場にたどり着く。私が
到着したときは既に自己紹介が始まっていた頃だった。私も着席し、
それぞれが自己紹介を済ませると早速攻略準備に取り掛かることとなった。
主催者であるMs.BBより小隊に配属を任ぜられる。その他注意点や戦略を
聞き、確認した後いよいよ彼女から戦線へと通じるゲートが開いた。
皆がそのゲートに飛び込む中、私も冷静を保ちつつゲートを潜る。

…が、その冷静も入り口に着くなり乱れてしまった。
オフィディアンの数が半端ではない。Aliceに話を聞いていたがこれほど
多いとは… 周囲の者からもざわめきが聞こえる。
小隊長であるMs.Kanadeが人数を確認・報告した後、Ms.BBから進軍の鬨が
発せられた。ガーディアンであるMr.Zuluや小隊長を先頭に先へと進軍する。
三合目ほどで早速敵の小隊と衝突、オフィディアンの戦士や魔術師が
束になって襲ってくる。その数は軽く見て我らの数よりも多い。この
戦闘で私やMs.Anjuなど数名が気絶してしまったが、壊滅することなく
残りの者たちで戦線を維持してくれた。私たちの気付けが終わり、荷物の
回収が終わった後改めて進軍を開始する。大量に敵が闊歩する丘の上を
避け、横道から進み、高山への道にて一度待機。人数の確認を行った後
大隊長から突撃の号が発せられる。それと共に皆が一斉に脇目も振らず
一直線に走り出した。この道は敵が多く待ち伏せている可能性があるため、
出発前に大隊長から突撃の合図と共に駆け抜ける旨が伝えられていたのだ。
案の定待ち伏せが数名居たが、どうも斥候の者たちがそのまま警備に
着いていたらしく部隊も大きな損傷無きまま無事通り抜けることが出来た。
ここから先は比較的見通しも開けており、蜘蛛城に着くまでさほど時間を
要しなかった。蜘蛛城のエントランスに着くと早速テラサンの兵隊たちが
襲い掛かってくるが入り口だからか個々や数名で攻めてくる者が多く、
各個撃破で十分に対応できる。入り口でテラサンの攻撃を防ぎつつ小隊長
たちが進軍先を決め、内部潜入の為の階段を部隊で離れぬよう探索する。
地理に詳しい者が居た為か部隊の中から方角を示す者もおり、そのお陰で
地下へと続く梯子を早く見つけることが出来た。ガーディアン以外がまず
入るよう指示があり、私もその段階で先に入る。
地下はやはり視界が悪く、常備していたNightSightPotionを飲むことで
ようやくある程度の視界を確保できた。皆が降りる前に梯子で下へと
降りるとそこにはかなりの数の人間がテラサン達と戦っており、私たちは
ドラゴンの谷へと進軍経路を変更した。が、そこにも誰かが竜たちと
戦っており、脇から逸れるように星の間へ。道中も戦術の人間を迎え撃つ
のに兵隊を割いている所為かあまりこちらの方は見当たらず、二・三度の
小隊との衝突以外は特に難なく星の間へと続く祭壇にたどり着いた。
祭壇の炎に向かい念じるよう指示があり、それに従う。と、身体が宙に
浮く感覚があった後に何処か地面へと降り立った。目を開けるとそこは
一面に星が散りばめられた、文字通りの『星の間』だった。Aliceも
これを見ていたのか…通りであのときの会話が熱っぽかったわけだ。
私たちが入るまで進軍を食い止めていたガーディアンたちも全員星の間に
入り、今回の進軍は無事成功となった。酒も振舞われたが、私は
飲むより先に壁から臨む星の景色に見入っていた──途中Mr.Eilveが
飲みすぎか酔ったのか窓から気持ち悪そうに身体を出していたが──。

と、Ms.BBから集合がかかり、皆が一度話をやめ集合する。
「蜘蛛城攻略は勝利となりました──」
との前置きがあり、そこでMs.BBがMr.Shin-no-sukeに感想を求める。
この攻略は上々だ、との意見だったが、彼の顔には何故かすっきりと
しないものがある。見回してみると、他の数名も顔に浮かぶ喜びが
薄い。やはり地下に強い魔物を従えた者や強い装備に身を纏った
冒険者が敵を屠っていたことで感情を満たすことが出来なかった
者がいるようだ。そこで、とMs.BBが提案する。『別の地域の攻略』を。
その話を聞くなり、その数名に嬉々とした笑顔が戻ってきた。
やはり物足りなかったらしい。それでは、とMs.BBは新たな命令を出した。
「それではこれより、カーナウ関所を攻略します」
カーナウ関所とはイルシェナーに存在する各地域を繋ぐ場所のひとつで
関所というよりは城に近く、山頂に聳えるその姿は一目見てカーナウで
あると分かるほどのものだったという。その為か魔物たちに目をつけられ
大侵攻を受けた。関所の人間も必死に抵抗したが最後には一人残らず
殺され、今は魔物たちの巣窟になっているという場所である。私が
読んだ書物の中でもこの関所は相当な危険地帯らしく、カーナウ攻略を
聞いたうちの数名に怯えの表情が伺えたのも納得する。ともあれ
攻略の為に一度TSSへと戻り、次の出撃に備えるため一度自宅で補充を
行った。もう一度TSSに行き、人数の確認が終わるとMs.BBがゆっくりと
イルシェナーに続くゲートを開いた──

イルシェナーは神秘的な地域である。ブリタニアのように動物が居る
地域は限られており、関所近くの武勇ゲートにも森はあれど動物がいない
という不思議な光景が見られる。その森を東に抜け、カーナウ関所の前で
キャンプを張った。人数確認が終わるとそのまま進軍を開始する。
中は死霊たちの住処となっており、RottingCorpseと呼ばれる屍人の中でも
最高位に位置する者や生命と引き換えに永遠の知識を得たLichなど
蜘蛛城に棲む者たちとは比較にならないほど強い固体が多かった。また
関所ということもあってか簡単に進軍できないような造りをしており、
迂回順路がそこかしこに用意されていた。敵の数も蜘蛛城までいかないに
しても相当な数で、何度かガーディアンたちを盾に攻撃するという
場面もあった。また、ここには時空の狭間──俗に言う『サーバー境界』
というものらしいが──が横たわっており、ここに一度引っかかると
眩暈が起こり構えが解かれてしまう。また他人にしか見えない残像も
生成されてしまうらしく、その関係でMr.Marusが一度敵に襲われてしまい
戦闘不能を余儀なくされてしまった。苦戦を強いられる場面もあったが、
その都度皆がまとまって敵を撃破したため戦闘不能に陥る者もあまり
出ずに進軍を行うことが出来た。やがて先発のガーディアンから出口を
見つけたとの報告があり、建物の南東へと向かい無事カーナウを突破する
ことができた。人数を再確認した後慈悲ゲートへ南下し、全員がTSSで
落ち合う。一角に集まり、各人が感想を述べた後Ms.BBが最後に一言述べ
解散となった。そのまま自宅へ赴くものも居たが私はTSSに留まり、
Ms.BBの妹のMs.Navi Communeに弓の調整を頼むことにした。調整も終わり
一角で家に戻らなかった数名と話していると突然背後の机でガタッ、と
机上の物を揺らす音が聞こえた。揃ってそちらを見るとMs.BBが机に突っ伏して
眠っている姿があった。指揮官という立場もあり、やはり疲れと安堵が
出てしまったのだろう。Mr.KEMOが風邪を引くぞ、と苦笑交じりに呟く。それも
そうだな、と彼女を起こさないように近づきFancyShirtを彼女に掛けた。
少々薄いが、何もないよりは良いだろう。そろそろ自宅へ戻ろうかと思い
酒場の面々へ挨拶をしようと振り返ると、そこには上半身裸のMr.Marusが
居た。Mr.KEMOに指示されて服を掛けようとしていたらしい。済まない、と
苦笑交じりに詫びた後挨拶をして自宅へと帰った。

家に着くなりAliceが驚いて私を見る。私がどうしたのか、と尋ねると
Shirtはどうしたの、と逆に問いただされた。本当のことを言うのも
少々気恥ずかしく憚られた為、オフィディアンに盗られて見分けがつかなく
なった、と誤魔化しておくことにする。Aliceは釈然としない様子だったが
とりあえず無事でよかった、と髪をいじりながら言ってくれた。そして
スープを作ってくるわ、と3階の部屋へと駆けていく。私は道具を仕舞い、
いつの間にか晴れた月明かりが差す工房のティーテラスに腰を下ろした。

目を閉じれば共に行動した者たちとの様子が未だに浮かんでくる。
まだまだ二十数年しか歩んでいないが、今回の復刻戦は私の中で何か
大きな意味を持つものになったと思う。
Anju, Eilve, Clandestine, KEMO, Vitamin, Thyme Shizune, Zulu, Shin-no-suke, Marus, Kanade, Black Beetle
彼らに、共に戦った仲間として、手記からではあるが心より感謝する。 また機会があれば是非とも参加したい。
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