○月×日 天気:晴れ

今の場所に引っ越してきてから数日、穏やかな日が続いている。
時折吹く風も、以前に砂漠で吹いたそれにはない優しさを運んでくる。

引っ越してきてからというものの、Alyssumの体調は日に日に
元気を取り戻していた。やはり自宅がYewということもあり、最近では
Aliceの死霊秘法の知識を吸収して自ら狩りに出かけるほどだ。
尤も、まだ様子見の状態なのであまり長い時間狩りに出かけては
いけない、と雪乃嬢に止められているのである程度で引き上げて
来るのだが。しかし、イルシェナーに居る頃と比べるとやはり
目に見えて生き生きとしているのはとても喜ばしいことだ。雪乃嬢も
介抱の心配がなくなったのを確認してからは狩りの頻度も上がり、
管理人は前にも増して屋上のバーでバーテンダーと話しながら
日向ぼっこと洒落込んでいる。かくいう私も最近は宝を求めて
彷徨ったり、EarthElementalを倒す日々だ。最近では弓の命中率も
高まり、Drakeなどは容易く殲滅することができるようになった。
また、雪乃嬢から騎士道の知識を譲り受けたことで回復も秘薬を必要と
せずに可能となり、とても便利である。
と、私の席の隣にAlyssumが座ってきた。どうやら狩りから戻ってきた
らしい。調子はどうか、と尋ねると彼女はにこやかに頷いてみせる。
やはりYewに住処を移して正解だったようだ。Alyssumは私の逆隣に居る
バーテンダーにYew産のワインを頼む。程なくして彼女の前に差し出された
グラスは透き通った桃色の液体を湛えて、軽やかに波打った。彼女は
一口飲んでふぅ、と一息つき現在の狩りの状況を話し始めた。
要約すると──現在はMoonglowで茶熊と戦っているらしい。よくよく
聞くと、なんとテイマーの技術を全て棄てるつもりのようだ。そして
ゆくゆくは前・後衛と支援ができるようになりたいとのことだった。
というのも、最近Aliceが行く酒場の面々と行動を共にするようになり
テイマーとしての真価が発揮できない、と感じるようになったという。
曰く、「動物は可愛いから……死ぬのを見るのが怖くて戦わせられないよ」
とのこと。テイマーになってから気づいた、ということか。
なので皆と行動する為にはどうすればいいかを自分なりに考えていた
らしい。その結果が今の行動に繋がっていると。
これから彼女がどう進んでいくつもりなのかは判らないが、これも
人と触れ合うようになった為か、と思う。ワインを景気よく飲む
彼女から自由を見て少し羨ましく感じた。

夜も更け、皆も寝静まった頃にAliceが帰ってきた。私は相変わらず
読書の為遅くまで起きていたが、今日のAliceはどことなく清々しく感じる。
何かあったのか、と尋ねると彼女は今日の出来事を詳細に教えてくれた。
今日はいつもと比べて酒場が早めに閉まったので、ではどこかに行こうと
いう話になったという。初めにゲートを通して行った場所は徳之諸島の
ボスクリーチャーであるYamandonという敵が居る地点で、話には聞いた
ことがあったが実際に見るのは初めてだったという。私もあのクリーチャー
に関しては写真を通してしか見たことがないが……彼女の話だと強力な
毒を仕込んでおり、行動を共にした冒険者たちの身体もかなり毒に支配
されていたようだ。AliceはBladeSpiritを出して援護しながら毒と怪我の
治療を施していたとのことだった。
次に通されたのは魔術師とRuneBeetleという敵が闊歩する地点。
RuneBeetleといえばテイマーがよく連れているのを見かけるが、やはり
魔術の強さが半端ではなかったという。しかも通常攻撃も相当なもの
らしく、怪我を治療するのに手間取ったとのこと。また魔術師も相当な
手練れのようで、体力は無いものの魔術を頻繁に使ってきたようだ。
彼女も何度か気絶をしたらしく、その都度パーティーメンバーに治療を
してもらっていたようだった。
最後はテラサン・キープ──通称蜘蛛城と呼ばれる場所に行ったようだ。
ここでは蛇のようなオフィディアンと呼ばれる種族と蜘蛛のようなテラサン
二つの種族が闊歩している場所である。この種族たちは互いを敵視しており
相手の種族を見かけると戦いを始めてしまうほど酷いらしい。
ここは流石に敵の戦地なのか、数がとてつもなく多かったとのことだった。
ゲートで通された場所からはオフィディアン、城の中にはテラサンが
殆どで、双方共に魔術師から前線で戦う戦士まで様々な兵種が居たとのこと。
ただやはり人間やエルフにも反応するようで、通常の敵のように自分の
姿を見た途端に襲ってきたらしい。彼女は何度もパーティーメンバーに
助けてもらい申し訳なかった、と困った表情を浮かべながら髪を指に絡み
つけていた。メンバーの中に一人案内役のような者が居たようで、
色々と場所の説明を受けながら移動したようだ。その中で彼女の心を
奪ったのは城の奥、松明が一つだけ置かれている場所を丹念に調べると
行ける通称『星の間』と呼ばれるところで、一面に星が瞬くのを
見て思わずこの場所が敵地であるということを忘れてしまったとの
こと。私もこの星の間に関しては様々な文献や挿絵を見るが……
実際に見たことはやはり一度も無い。場所が場所なので行きたくても
行けないのだ。しかしこのような場所に行けるのは偏に皆との協力の
賜物か…… いいものである。Aliceもまだまだ昔の場所にもいい所が
あるのかもね、と笑顔で話してくれた。とにかく彼女は星の間が
相当にお気に入りだったらしく、また機会があれば行って写真を撮りたい
と話した。私もいつかは行ってみたいものである……

ひとしきり話した後、Aliceも疲れたのか早足でベッドのある方へ
向かった。私もそろそろ切り上げて眠ることにしよう。

		
	
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