○月×日 天気:晴れ

手記も早いもので既に10ページ目だ。
まさかこの区切りの日にこんな事態になろうとは…

さて、この頃手記を書けなかったのには理由があるが
順を追って書き留めていきたいと思う。

思えば事の発端は数日前の食事のときだった。
Aliceが食事を用意し、皆が食卓について食べ始めた
時のことだ。Aliceが突然マラスについて興味が
あるかを尋ね始めた。基本的にAliceが話題を
提供するためこの日もその類だろうと思い、私は
行ったことがないことも含め大いに興味があると
返答した。続いて雪乃嬢が暑くなければ基本的に
どこでもよいと答えた。…確かに涼しげな格好を
しているだけはある。Alyssumはエルフの故郷たる
Yewからはなれることに難色を示したが、まぁ
従うだけ従うとのことであった。管理人も何か発言を
しようとしたがAliceが考え込んでしまったために
言い出せなくなってしまっていた。元々聞くつもりが
なかったのだろうか。そうして判ったわ、と小さく
Aliceが呟くと、またいつも通り食事が進むのだった。

3日前の夜、皆が寝静まり──私は少々調べ物が
あったので起きていたが──、戸締りをしようと1階に
降りたところ、Aliceがベンダーカウンターの隣に
飾ってあるドライフラワーに手を当て何か考え事を
しているようだった。早く眠ったほうがいいとの旨を
伝えたところ、いきなり私に向き直り、マラスへ
引っ越す旨を伝えてきた。現在よりも広い土地を
見つけたとのことだ。砂漠地帯ではあるが海が近い
こともあり砂塵も舞わず、内陸部に比べると涼しい
とのことだ。その話を聞き、私は異存が無いこと、
そして他の3人の意見も良く聞いてから決定する
ように、との忠告を渡し寝室へと戻った。

それから2日後、つまり昨日のことだが、正式に
引っ越すことが決定した。雪乃嬢は予めAliceが
その土地へと連れて行き過ごせるかを判断させた
ところ、おそらく大丈夫とのことだった。管理人も
鍛冶を行う場所の確保を餌に釣られたようだ。
だが……やはりAlyssumはどうにも難色を示した
ままだった。やはりエルフの血がYewに縛りつけて
いるのだろうか。難しいところだ。
ともあれ、引越しが決まると流石に独断に近い形
での決定が気まずかったのか、引越しに関する
全てのことを任せてほしいとの申し出がAliceから
なされた。私は別に構わなかったのだが、
雪乃嬢がどうしても手伝いたいと言った為に二人に
お願いすることにした。それから荷造りを初め、
終わる頃にはすっかり夜も更けてしまった。
最後の夜になるとのことで、屋上に作られた簡素な
野外バーに腰を下ろすと、そこにはAlyssumが居た。
明日は早いから早く眠れ、と告げたが一向に
耳を貸そうとしない。確かにYewはかなり長い期間
住んでいた土地であるし感慨も一入ではある
だろうが、切り替えなければ先にいけないだろう、と
Yew特製のワインを口に含みながら言うと、
Alyssumは小さく頷き、だが決して席を立とうとは
しなかった。私も深くは追及せず、残りのワインを
飲み干すと寝室へ戻った。

翌日荷物をまとめた私たちは二人を除き自由時間と
なった。AlyssumはおそらくYewを散策するだろう。
管理人は散歩をしてくるとミノック方向に行ったため
私はブリテイン方向へと足を運ぶことにした。
今日は休みということもあり、城下にはたくさんの
人であふれかえっていた。特に銀行前では
やりとりが盛んで、行き交う人々の会話を聞くだけで
あっという間に時が過ぎてしまう。特に有益な
情報はなかったが、時間があればまた来てみよう。
夕方帰宅すると、そこには見事に土台しか残って
いない我が家があった。あれほどの調度品や家具が
あった家もこうなってしまうのか…と少々寂しくなる。
どうやら私が最後だったようで、私が来たのを
確認するとAlyssumが新しい我が家へのゲートを
開く。それぞれがゲートをくぐる中、やはり彼女だけ
自分からくぐろうとはしない。私が軽く背中を押し、
振り向く彼女に向かって頷くと、ようやくゲートを
くぐっていった。

私が最後にゲートをくぐると、そこには砂漠に映える
大理石の建物があった。確かに前の家よりも
一回りほど大きいようだ。早速中へ入ってみると、
入ってすぐのエントランスはベンダーカウンターの
ようだった。前の家より幾分か場所を削ったように
思える。Alice曰く、「売れ筋だけを残すようにした」
とのことだ。土地の1/3ほどを占めるエントランスの
奥に私たちの家への扉があった。月をあしらった
扉を開けると、そこはダイニングルーム。調理場と
食事用のテーブル、そしていくつかのセキュア
──どうやら装備品中心らしい──があった。
2階は3階への廊下と、奥に寝室兼書斎が用意
されていた。今日の手記もこの書斎から書いて
いる。隣には大きく開いた窓から眺めることの
できる小さなテーブルもあり、ここで紅茶などを
飲むのも良いかもしれない。
3階は管理人待望の鍛冶や裁縫のできる作業室
になっていた。また、家具全般が置いてある
セキュアもこちらにあり、少々手間はかかるが
場所をとらない位置にありいい具合である。
そしてその奥には──なんと芝生の敷いてある
テラスがあった。まだ机などは用意されて
いないが、じきに用意するとのことだ。天気の
いい日などはここから管理人が音楽などを
奏でるとなかなかさまになるだろう。総合すると、
なかなか悪くは無いところのようだ。ただ、
あくまで私は、だが。……やはりAlyssumの
機嫌が気になるところである。私から聞くのも
何かおかしな話ではあるし、このまま
穏便に済むといいのだが……これは彼女自身の
問題だろう。

ともあれ、このような理由で最近は手記が
滞ってしまった。荷物の整理もようやく終わった
ので、また明日からはShameにでも行き
弓の修行をすることにしよう。

		
	
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